ブルックナー 交響曲第4番 朝比奈隆 日本フィル 1980年 カテドラル

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1980年に東京カテドラルで行われた、5つのオーケストラを使ったブルックナーのコンサート。これは梶本音楽事務所の企画だった。この演奏会は、直後にデラックスなLPのセットで発売された。その後、5番、9番はビクターの全集に収録されたが、それ以外については、今回はじめてCD化された。タワーレコードの企画で、4枚で3000円という廉価盤である。1980年というデジタル録音が出る前の、最高のアナログ録音で、びっくりするほど音がよい。これはSACDで聴いてみたいな、と思う。

タワーレコードから、シングルレイヤーのSACDによるセットが発売されている。ものすごくいい音で楽しめます。

ジャンジャンの全集直後の、朝比奈さんとしては初期のブルックナー演奏の記録である。まだ、東京の定期演奏会で、当日券が楽に買えた時期。まだ70歳代だ。私も大阪フィルの合唱団で直接お世話になっていて、本人とまだいろいろお話することも多かった時代だ。当時私は社会人2年目。銀行に就職が決まったときに、朝比奈さんにも報告に行った。それはよかった、と喜んでくれた。

このコンサートは、朝比奈さんが、聖フロリアン教会での演奏をやって、日本でも教会でやってみたい希望が、いろいろな方々の尽力で実現したものである。宇野功芳氏もその推進者だったが、実際の演奏に接してネガティブなコメントが多く、その後1983年にもう1回カテドラルでのコンサートシリーズがあったが、その後実現していない。そもそも、ブルックナーは教会のオルガニストだったから、その交響曲も教会の残響を考えて作曲したのだろう、という話にもとづく。交響曲には、多くのゲネラルパウゼがあることがその根拠になっている。

朝比奈さんの聖フロリアンでの演奏会は、当のフロリアンでも初めてだったらしい。この演奏のあと、マルモアザールではなくて、教会のドームの方でいろいろなブルックナーのコンサートが行われた。没後100年は、ピエール・ブーレーズがウィーンフィルと8番を演奏したし、あとヨッフムもやっている。

このカテドラル公演は、当初全然チケットが売れなかった。当時、梶本に友人がいて、彼に頼んでチケットを入手したが、まったく売れないと言っていた。しかし、その後のいろいろな努力があったのだろう、各公演は満員だった。

そして実現した第4番。それは夢のような音響空間だった。最初のホルンがきこえてきたとき、鳥肌がたった。音があっちこっちから聞こえてくるのだ。第3楽章の角笛は、天から降ってくる感じだ。東京カテドラルというのは、席によって、まったく音響が異なるそうで、いい席とそうでない席とは満足度が違うようである。この演奏も、その前のジャンジャンのものも、オケがやりたい放題鳴らしているという感じがして、音楽のエネルギー感がすばらしいのだ。音楽的な完成度としては、やはり最後の2001年のものだろうが、このころの演奏も楽しく聴ける。

これを聴いているよ、そのときの記憶がよみがえる。まだ、朝比奈さんのブルックナーがそんなに神格化される前の話である。

このカテドラルのコンサートでは、宇野さんは、残響は要らないというコメントをしていた。響きすぎて、何をやっているのかわからない、ということだそうである。

しかし、私は、この残響を好む。音が重なって聴こえないという以上に、この陶酔感は他では味わえないものだ。ギュンター・ヴァントのリューベックの第8番、第9番の録音がある。あれも残響がすごく長い。ヴァント自身それが気に入らなかったらしく、あとでこの2曲は録音しなおしている。その再録音もすばらしいが、私がよく聴くのは、リューベックの方である。朝比奈さんのブルックナーも聖フロリアンははずせないのだ。

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