ブルックナーの楽譜

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ブルックナーは、生前よく自作を改訂していた。第1番なんか、リンツ版とウィーン版は、作曲時期もだいぶ違うし、トーンはずいぶん違う。

また、生きているときに、演奏が成功したのはほとんどなかったこともあって、レーヴェ、シャルク等が独自の版をつくっている。これは、カットも多いし、管弦楽法がずいぶん改変されているので、今日ほとんど取り上げられることはない。たまに、改訂版を意識して取り上げる人もいないわけではない。

その後、ロバート・ハースにより原典版の編集が行われた。9番はオレルがやっているので、オレル版ともいう。3番はエーザーが編纂している。ハースのあと、レオポルド・ノヴァークが編纂したものがノヴァーク版。ノヴァークの引退後、それを引き継いた人がいろいろな版を編纂しているが、これはノヴァーク版とはいわず、キャラガン版というように、実際作業にたずさわった人の名を冠している。

ブルックナーの原典版を演奏しはじめたころ、楽譜の調達がむずかしかったこともあって、ドイツ系はハース版、オーストリアはノヴァーク版というパターンが多かった。ブルックナー協会版の楽譜は、パート譜をレンタルで借りなければならないという制約があり、オケ所蔵のパート譜にいろいろ修正するという実務的な方法もとられる。

朝比奈さんは、ハース版の信者のようにいわれているが、8番は最初はノヴァーク版だったし、3番については、エーザー版、ノヴァーク第2稿、ノヴァーク第3稿と取り上げている。(ノヴァーク第1稿、いわゆるワーグナーの引用のあるやつは使っていない)しかし、それ以外は、ハース版(第9はオレル版である)7番を聖フロリアンで演奏したときに、ノヴァークが聴きにきていて、朝比奈さんに会いにきた。そこで、朝比奈さんはハース版を使っていたので、そのことをわびると、ノヴァークは演奏がすばらしければ、版は問題にならない、と言ったとか。あの7番の演奏にまつわるエピソードは多い。

まあ、しかし、演奏にあたって、版にこだわるというのは、日本の聴衆くらいのものではないだろうか。アメリカやヨーロッパでは演奏会のプログラムに原典版という表記はあるが、それ以上くわしいのは、あんまりみたことがない。

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