ビクターのブルックナー交響曲全集にフィルアップされている演奏です。
東京交響楽団の演奏会のライブ。東京文化会館。1980年です。
これは、単発されず、全集が出るとき、どうするんだろうと思っていたら、こういう思いがけない録音が残っていた、という感じでした。
第6番は演奏回数が少なく、私は朝比奈さんの実演を聴く機会はありませんでした。
この演奏、大阪フィルではないので、音が比較的明るく、アンサンブルも比較的まとまっています。表現が意外に淡白です。
朝比奈さんと東京交響楽団は相性がけっこうよくて、晩年にもいろいろ演奏しています。
ブルックナーとしては、第5番で一旦リセットして、またあらたにスタートした、というようなことを朝比奈さんが対談で言っています。ただ、演奏は相当むずかしいようです。
録音は悪くないが、比較的明瞭度が低いというか、少しヴェールがかかったような印象があります。しかし、SACD盤は明瞭度がまし、きわめて自然な残響でとても素晴らしいです。
第1楽章
比較的淡々とはじまります。仕上げが比較的きれいです。全体的にすっきりしてはいます。しかし、あんまり洗練された響きではないのと、テンポもけっこう動きます。
ただ、最後のキャニオンの方はもっとすっきりしているのに、もっとしみじみもしているのです。この曲、なかなか表現が難しいです。
第2楽章
ブルックナーで、もっとも美しい音楽のひとつだと思います。ロマン的でなく、淡々とやってかつ泣かせるという意味では、後年の7,8,9にもないものがある、空前絶後の名曲です。そのなかでも本当に天国的なのは、実は朝比奈さんのキャニオンと、ヴァントのミュンヘンフィルでしょうね。
ゆっくり、しずかに始まります。表情は比較的淡白。あの第2主題は、出だしは不調なのです。しかしヴァイオリンはすばらしい。そのうち盛り上がってくるとなかなかの音を奏でます。そのあとのしみじみした第3主題はかなり淡白ですが、なかなかきかせます。
後半は本当にすばらしいです。ゆったりしたテンポで、やさしく包まれるというか、これだけ優美な音楽は、朝比奈さんとしては珍しいです。涙が溢れてきました、
第3楽章
低音部がしっかりテンポをきざみ、ヴァイオリン、管がのってきます。あんまりがちがちではない感じ。思ったよりも淡白。
トリオは、あっさりとしていて、かつ空間がきれいです。
第4楽章
ここに来てエネルギー全開ですね。かなりテンポが速いので、おもったより重量感がありません。このころは、テンポの緩急がけっこうあります。それが後年になると、もっとインテンポなのに、表現の幅が出ます。これが円熟なんでしょうか。第2主題はかなりねばっこい表現です。その後も一気に行きますが、意外にあっさり目です。
全体的に言って、この6番は、比較的淡々として、音色も明るくて、比較的軽めの表現です。
こういって、キャニオン盤聴くとおもしろいですよ。もっと軽くて、すっきりしていて、淡々としているのですが、もっともっとせまるものがあって、もっと感動します。音楽の円熟とは、難しいものです。