キャニオンでの朝比奈さんの3度目の全集をDSDマスタリングしてSACD化したもの。最初単発で、それから全集、それから廉価盤でHDCDになり、今回が4回目の発売。朝比奈さんの生誕100周年にあわせた再発で、音は格段によくなった。1995年4月23日、大阪、ザ・シンフォニーホール(ライヴ録音)これは、この全集の最後に発売されたもの。最初に入れたものが気に入らず、別の演奏会のテイクだったように記憶している。この演奏会も大阪のもので、当時東京に住んでいたので、ナマはきいていない。 全集でセットになったものは、リハーサル風景が付属している。
第9番については、ハース版がないので、原典版となっているが、オレル版である。ただ、ノヴァーク版でもほとんどかわらない。
朝比奈さんのブルックナーの第9番というのは、とくに実演では鬼門というか、なかなかコンディションのよいものは少なかった。しかし、最晩年のものは、非常に安定感もでてきた。オーケストラの実力の向上もその一因だろう。大阪フィルは、金管の音程や響きに問題があったが、このころには、見事解決している。
この第9番、実に雄大で、じっくりときかせる、超絶的な名演奏である。
第1楽章、かなり明るい音色ではじまる。主部にいたるまで、けっこうテンポが自由である。いつものことながら、強めのピッチカート。自信をもった足取り。第1主題は、太くゆったりとしている。非常に安定感がある。全体にわたり、表現の幅がひろくて、自由に演奏している。厳密な因テンポではない。
第2楽章、スケルツォ。非常にゆっくりしたテンポ。非常にくっきりとした表情。初期の録音とくらべ、圧倒的な重量感。トリオもものすごくくっきりとした弾きかただが、硬くはない。弦が非常に雄弁。管も安定している。思った以上に表情があかるい。
第3楽章、非常に太く、雄大にはじまる。いきなり金管も全開。すべての音に心がこもっていて、もう1分38秒のところの全奏で涙が出てくる。最後まで、これが持続する。一番最後のヴァイオリンはきちんと弾かれている。これが、あのシューリヒトに近づくの最後の演奏まで待たなければならない。
ライブだが、拍手ははいっていない、ということは、最後の部分は、ゲネプロのテイクであろうか。
朝比奈さんのブルックナーは、こういう最後の交響曲でも、豊かな生命力を感じさせるもので、とくにこういうブルックナーのような、音の洪水に身をまかせる曲だと、すばらしい幸福感につつまれる。