朝比奈隆のマーラー

朝比奈さんは、マーラーも好んで取り上げた。

1972年の大フィルの第100回定期演奏会で、第8番をとりあげ、ステージに本当に1000人乗って演奏された。ステージに並ぶのに、1時間もかかるという大変なコンサートだった。定期演奏会で2回、民音で1回、合計3回行われた。私は、幸い生を聴くことができた。あまりに人が多いので、時間差があり、なかなかそろわない。ただ、録音は、けっこううまくとれている。

1980年台なかばの東京定期演奏会は、マーラーの交響曲の演奏が続いた。第5番、第6番、第7番、第9番と続いたが、私は、5,6,7は実際に聴いた。第9番は、私のアメリカ留学の直前で、残念ながら聴いていない。
第5番は、演奏されたのだが、録音が残っていないらしい。朝比奈さんは、自分用にいつも録っていたから、あると思うのだが、このときのシリーズのCD化のときに、第5番はない、ということだった。

そのほか、第2番、第3番、大地の歌は、複数回とりあげられた。
1970年台の復活は、私はステージで歌っている。
キングで、第2番、大地の歌が録音された。朝比奈さんは、日本人の歌手で歌える人がいないとか、言っていたが、歌える人が出てきたので、演奏会で取り上げたのである。
その後、キャニオンで録音された第2番、第3番はすばらしい録音だ。

第4番は、初期に取り上げたが、晩年では演奏しなかった。

ただ、第1番 巨人は、構成に問題があるとかいうことで、取り上げていないため、全集の録音は完成しなかった。

朝比奈さんのブルックナーやベートーヴェンの演奏を聴いていると、マーラーは合わないような気もするのだが、実際に演奏してみると、なかなかフィットするのである。耽美的ではないが、決してストイックではない。

朝比奈さんのブルックナーは、ストイックと思われるかもしれないが、実は、生の喜びであるように感じている。そう考えると、マーラーもまた面白い演奏をしているのである。

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朝比奈隆とマーラー

朝比奈さんは、最初は、チャイコフスキーをはじめとしたロシア音楽、それからベートーヴェン、最晩年は、ブルックナーを主たるレパートリーとしていた。

マーラーはどうであろうか。

意外とやっている。

ただ、第1番だけは、演奏していない。曲の出来が不満だったようで、一度も演奏していない。

第4番は、晩年には演奏していない。

私が最初に聴いた、朝比奈さんの演奏会は、マーラーの交響曲第8番であった。

大阪フィル合唱団では、第2番「復活」をうたった。あれは、男性の最低音を歌える人はほとんどいない。

私は、就職後すぐに東京勤務になったとき、大阪フィルの東京演奏会は、マーラーの演奏をよくやっていた。

私が聴いたのは、5番、6番、7番である。

第9番については、留学前に演奏していたが、当時いそがしくて、聴きにいけなかった。

このとき、第5番の演奏をしているが、これは録音が残っていないようである。そうなのだろうか。朝比奈さんは、自分のコンサートは、必ず録音していて、あとで、確認していたはずだから。

かなりあとになって、サントリーホールでの東京定期演奏会で、大地の歌、を聴いた。この曲は、以前からやりたかったそうだが、歌える日本人がいない、といって、ずっとやっていなかった。

朝比奈さんのマーラー、比較的ザッハリッヒながら、人間的な温かみも感じ、スタイルとしての違和感がなく、なかなか充実した響きがある。

録音されたものでは、第3番が、非常にレベルの高い演奏である。

演奏については、また個別に書く予定にしている。

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マーラー 交響曲第4番 朝比奈隆 大阪フィル 1968年

朝比奈 マーラー 交響曲第4番
通販で申し込んでいたが、やっと入手した。

朝比奈さんファンにとって、まさに涙なしに聴く事ができない、発掘モノとしては、最上級のものである。

朝比奈さんは、マーラーを第1はやらないと公言していたわけだが、第4はやった歴史があった。しかし、晩年とりあげなかったから、どういう演奏だったかは、非常に気になるところであった。

それが、今、聴く事ができる。

朝比奈さんが存命だったら、この演奏について、何とコメントしただろう。

朝比奈さんのマーラーは、名演が多いのである。この演奏は、1968年で、東京文化会館のライブ。モノラルだが、けっこう音はよい。

第3楽章がやはり、とてつもない名演奏。すなおな表現だが、非常によくうたう。後年のザッハリッヒなマーラーより、この方が面白い。けっこうテンポも動く。

大フィルのレベルだって、悪くない。

樋本栄さんは、大阪のソプラノの大御所である。イタリアもののオペラをよくうたっていたし、私も大フィルの合唱団時代、ソリストとして、第九などに出ていた。思ったよりもすっきりしたうたい方で、よかった。イタリアっぽい歌い方ではあるが。

しかし、なぜ、晩年にとりあげなかったのだろう。

HMVコメント

朝比奈隆初のレパートリー!
マーラー交響曲第4番登場!

ついに封印が解かれました! 朝比奈初のレパートリー、マーラー交響曲第4番の登場です。朝比奈がその生涯にこの曲を指揮したのは1968年の2回(3回とも言われております)だけでした。
 しかし演奏内容は、朝比奈がなぜこの曲をレパートリーから外してしまったのか理解に苦しむほど素晴らしいものです。
 第1楽章展開部クライマック豪快さは、60歳になったばかりで気力体力共に充実していた巨匠のエネルギーをいやというほど見せ付けます。そして21分をかけて丹念に歌いこまれた第3楽章では、美と恐れの両立した演奏が繰り広げられ、当演奏の白眉と言える内容となっています。楽章終わりの雷鳴をあらわす激しい部分の迫力にも凄まじいものがあり、自然の脅威を強大に示しているのが印象的。
 音は残念ながらモノラルですが、放送用収録のため、周波数レンジやダイナミック・レンジは十分な水準に達しており、テープの保存状態も良好だったため、マーラー作品の鑑賞にも問題のないクオリティが保たれています。なお、マスタリングはドイツのWEITBLICKレーベルでおこなわれています。

【ヘンリー・フォーゲル(元シカゴ響総裁)の解説より】
朝比奈の演奏がすばらしいのはあらゆるものを把握して表現している点である。朝比奈の指揮ぶりについてよく知っている人たちはアダージョの最初のパートで美しく内面を見つめるような演奏を予想するところだが、楽章の終わり、クライマックスの爆発における獰猛な様にびっくりするかもしれない。マーラーのスコアでは多くの箇所で記載されているが、しばしば控えめに演奏されてしまうポルタメント(ある音から次の音へスライドしていく)を実に効果的に使って、朝比奈は鋭く辛辣で奥深い感情をすみからすみまで付け加えていく。そしてスケルツォの恐ろしさで身震いするような低音(表面からかなり離れて下方にあるわけでは決してない)はこの解釈からすればはっきりと明確に奏でられる。

【収録情報】
・マーラー:交響曲第4番ト短調

 樋本栄(ソプラノ)
 大阪フィルハーモニー交響楽団
 朝比奈隆(指揮)

 録音時期:1968年9月2日
 録音場所:東京文化会館(大阪フィル第7回東京定期演奏会)
 録音方式:モノラル(ライヴ)
 音源提供:朝日放送
 エンジニア:幸西徹昌

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