レコードというメディアが、日本でのクラシックマーケットに残した、おそらく最大の業績は、このディスクジャンジャンのブルックナーの交響曲全集ではないかと思います。
歴史的な意味は計り知れないです。ひとつのクラシックのブームをつくった立役者として、永遠に名前をきざむことのできる大偉業です。
これだけ、企画と演奏にすばらしく一貫性のある全集は、ほかにありません。朝比奈さんのブルックナーは、これ以降、全集としてもほかに2つ、選集もたくさんあるのですが、すべてがここから始まったのです。
当時、朝比奈さんの演奏は、非常に好評でしたが、最初の録音は学研のベートーヴェン交響曲全集、そしてメジャーレーベルはヴィクターのやはりベートーヴェンの交響曲シリーズです。当時、朝比奈さんのブルックナーはかなり評判だったのですが、レコード会社はその気になりませんでした。
ジャンジャンは、渋谷にあったスタジオですが、今はもうありません。跡地は、小さなホールと喫茶店になっています。
ここのオーナーの高橋氏が、朝比奈さんのブルックナーの演奏会に行き、大感激して、私財をはたいて、ブルックナーの交響曲全集を作ったのです。最初、LPのセットで限定500部でした。
高橋さんは、東京文化会館で朝比奈さんのブルックナーの演奏会を聴き、いたく感動したそうです。そして、上野公園から上野駅に下りる道で、その日の聴衆の反応を感じ、3往復もして、その日の数多くの聴衆もやはり同じ思いであることを知りました。そして、一大決心をしました。
最初は、大阪フィルではなく、東京のオケにしたらというアイディアもあったようですが、絶対的に大阪フィルでなければいけない、と高橋氏はゆずりませんでした。彼、信念の大偉業です。
そして、会場は、音響のいい、神戸文化ホールが選ばれました。
第7、第8、第9の3曲がまず録音されました。それ以外については、大フィルの定期演奏会、東京定期演奏会のプログラムに組まれ、実況録音されました。
最初の3曲を録音した段階で、高橋さんは、第8の演奏が気に入らなかったらしく、再録音をしました。この前の録音は、最近になって発売されましたが、とてもいい演奏ですが、最初に出た再録音の方が数段いいです。
この第8番の再録音は、すこしだけ聴衆をいれて録音しました。私は、これを聴きに行きました。神戸文化ホールで、聴衆は、一番後ろの席でした。オケは公開録音ですが、本番ではないので、私服でした。
この公開録音、すばらしい演奏でした。そして、演奏終了後、朝比奈さんは、コンマスの安田さんと握手をしていまい、解散してしまったので、これ一発勝負の録音です。一部修正はしていません。本当は、修正をする予定だったそうですが、朝比奈さんがそれをわすれてしまい、解散してしまったそうです。しかし、この演奏、修正する必要がないほどの完成度です。最終楽章の最初のテンポの乱れがあり、もし直すならそこでしょうが、これは修正しなくていいです。
そして、第2番も同じ条件で録音されました。私は残念ながら、この第2番はいっていないのですが、行った友人によると、聴衆の大部分は、この曲をはじめて聴いたのだけれど、最初の楽章だけで圧倒された、ということでした。このときは、ちゃんととりなおしをしたので、一部修正しています。
この公開録音という方法は、大成功で、このあと、ヴィクターのブラームスの交響曲全集がこのやりかたで録音されています。この録音のさなか、コンマスの安田さんがバイク事故で側溝にはまり亡くなるという大事件があり、大フィルは危機を迎えることになるのですが。
こういうふうに、最初の3曲と第2番が録音されました。それから、演奏会のライヴが録音されました。
私が録音された生演奏をきいているのは、第3番、第5番、第8番です。
個々の演奏はひとつひとつ全部書く予定ですが、この全集の特色は、ものすごい熱気がある、ということでしょうね。最後のころの大フィルとくらべて、下手だし、音も美しくないのですが、聴いていると、それ、すぐに慣れてしまい、その熱気ムンムンにやられます。
そして、
これ、すごーい
すごーい
すごーい
ということになってしまいます。
これほど、情熱に満ちた、そして生命力にあふれたブルックナー、ほかにないです。
本当にすばらしい全集です。
このLPは、最初、第8番のみ2枚組みで発売されました。そしてすぐに買いました。非常に発売枚数が少なかったのですが、私は、大フィルの合唱団のメンバーでしたから、予約できました。
そして、7,8,9の3曲がセットで発売されました。全部2枚に切っています。第9は3面ですが。それで、リハーサル風景がついています。このセットも購入しました。そして、8番ぬきという方法でも買うことができました。
最後に全集が出ました。第1番以外は2枚使うという、非常にぜいたくなカッティングでした。そして、7、8,9を買った人は、1から6だけという販売もしていました。このときに特典盤としてついていたのが、聖フロリアンのあの超絶的な第7番です。ただし、特典なので、1枚のカッティングで音のレベルはよくありません。あとのヴィクター盤が数段いいです。この全集、解説書がないです。簡単なデータと、朝比奈さんが最後の5番の録音のときに書いた文章だけです。
あとになって、第8番は再録だということで、最初に出た1枚が、もとの演奏ではないか、というウワサが出ましたが、私は全部持っているので、それは違います、と断定できました。
このプレスは、500部しかありません。高橋氏は再プレスを拒否したのです。いや1000部だったかもしれません。
これのCDは相当あとになって、かんたんな紙ボックスのもので発売されました。
それから、再生テープレコーダーを当初録音したのと同じアンペックスにして、グリーンドアから非常に立派なボックスいりのセットで出ました。これは非常に高価だったのですが、すぐにタワーとかHMVで大安売りされました。ここには、第8番の旧録音が含まれています。それにリハーサル風景がはいっていますが、あまり語りはありません。ここには、相当くわしい解説書がはいっています。ここで、いろんな事情がはじめて明らかにされました。
このなかの7,8,9については、ワンポイントとマルチと異なるマスターがあります。それで、最後のこのグリーンドアのものは、最初のLPとは、かなり印象が異なるものになっています。
このセットは、廃盤になっていますが、流通在庫や中古品はあると思います。
定価は約4万円と非常に高価ですが、流通価格は1万円台だと思いますが、変動します。
全集のみの販売です。
以下、データ
HMV HPより
各曲のコメントにジャンプします。
【収録情報】
DISC1
・交響曲第1番ハ短調 WAB.101(ハース校訂リンツ版)[46:59]
第1楽章:12:28
第2楽章:11:39
第3楽章:09:14
第4楽章:13:38
拍手:1:19
録音時期:1977年1月24日
録音場所:大阪フェスティバル・ホール
録音方式:ステレオ(ライヴ)
オリジナル・マスターからのデジタル・マスタリング
DISC2
・交響曲第2番ハ短調 WAB.102(ハース版)[69:52]
第1楽章:19:12
第2楽章:18:30
第3楽章:10:25
第4楽章:21:45
録音時期:1976年8月25日
録音場所:神戸文化ホール
録音方式:ステレオ(公開セッション)
オリジナル・マスターからのデジタル・マスタリング
DISC3
・交響曲第3番ニ短調 WAB.103(エーザー版)[57:38]
チューニングと拍手:1:48
第1楽章:19:41
第2楽章:15:05
第3楽章:06:57
第4楽章:15:55
拍手:1:57
録音時期:1977年10月28日
録音場所:大阪フェスティバル・ホール
録音方式:ステレオ(ライヴ)
オリジナル・マスターからのデジタル・マスタリング
DISC4
・交響曲第4番変ホ長調 WAB.104(ハース版)[63:25]
拍手:0:41
第1楽章:17:17
第2楽章:14:48
第3楽章:11:06
第4楽章:20:14
拍手:2:40
録音時期:1976年7月29日
録音場所:東京文化会館
録音方式:ステレオ(ライヴ)
オリジナル・マスターからのデジタル・マスタリング
DISC5&6
・交響曲第5番変ロ長調 WAB.105(ハース版)[78:25]
拍手:0:38
第1楽章:21:30
第2楽章:17:28
第3楽章:14:33
第4楽章:24:54
拍手:5:11
録音時期:1978年1月25日
録音場所:大阪フェスティバル・ホール
録音方式:ステレオ(ライヴ)
オリジナル・マスターからのデジタル・マスタリング
DISC7
・交響曲第6番イ長調 WAB.106(ハース版)[59:13]
チューニングと拍手:1:53
第1楽章:17:44
第2楽章:17:08
第3楽章:09:17
第4楽章:15:04
拍手:7:27
録音時期:1977年9月1日
録音場所:東京文化会館
録音方式:ステレオ(ライヴ)
オリジナル・マスターからのデジタル・マスタリング
DISC8
・交響曲第7番ホ長調 WAB.107(ハース版)[67:44]
第1楽章:20:50
第2楽章:23:10
第3楽章:09:34
第4楽章:13:10
録音時期:1976年4月14日
録音場所:神戸文化ホール
録音方式:ステレオ(セッション)
未発表オリジナル・マスターからのデジタル・マスタリング
DISC9&10
・交響曲第8番ハ短調 WAB.108(ハース版)[84:26]
第1楽章:16:00
第2楽章:16:50
第3楽章:26:59
第4楽章:24:37
拍手:4:57
録音時期:1976年8月23日
録音場所:神戸文化ホール
録音方式:ステレオ(公開セッション)
オリジナル・マスターからのデジタル・マスタリング
DISC11
・交響曲第9番ニ短調 WAB.109(ハース版)[64:55]
第1楽章:26:50
第2楽章:11:27
第3楽章:26:38
録音時期:1976年4月22日
録音場所:神戸文化ホール
録音方式:ステレオ(セッション)
新発見のオリジナル・マルチによるデジタルリミックス盤
DISC12&13
・交響曲第8番ハ短調 WAB.108(ハース版)[82:47]
第1楽章:15:49
第2楽章:16:38
第3楽章:26:20
第4楽章:24:00
録音時期:1976年4月15、16日
録音場所:神戸文化ホール
録音方式:ステレオ(セッション)
オリジナル・マスターからのデジタル・マスタリング
DISC14
・交響曲第2番ハ短調 WAB.102(ハース版)~リハーサル
第1楽章:23:54
第2楽章:05:56
第3楽章:06:06
第4楽章:14:18
録音時期:1976年8月25日
録音場所:神戸文化ホール
録音方式:ステレオ(公開セッション)
オリジナル・マスターからのデジタル・マスタリング
DISC15
・交響曲第4番変ホ長調 WAB.104(ハース版)~リハーサル
拍手:0:41
第1楽章:12:40
第2楽章:16:05
第3楽章:7:37
第4楽章:23:02
拍手:2:40
録音時期:1976年7月29日
録音場所:東京文化会館
録音方式:ステレオ(ライヴ)
オリジナル・マスターからのデジタル・マスタリング
DISC16
・交響曲第8番ハ短調 WAB.108(ハース版)~リハーサル
第1楽章:08:19
第2楽章:07:14
第3楽章:21:47
第4楽章:07:57
録音時期:1976年8月23日
録音場所:神戸文化ホール
録音方式:ステレオ(公開セッション)
オリジナル・マスターからのデジタル・マスタリング
DISC17
・交響曲第9番ニ短調 WAB.109(ハース版)~リハーサル
第3楽章:54:59
録音時期:1976年4月22日
録音場所:神戸文化ホール
録音方式:ステレオ(セッション)
オリジナル・マスターからのデジタル・マスタリング
大阪フィルハーモニー交響楽団
朝比奈隆(指揮)